犬が口に入れたおやつを「ぺっ」と出して、また入れて…また出して…ってなんなの?

おやつをあげたとき、犬がパクッとくわえて「ぺっ」と出して、またくわえて…そしてまた「ぺっ」――。 そんな行動を見たこと、ありませんか?

「遊んでるの?」「嫌いなの?」って思うかもしれませんが、実はこれ、犬なりにすごく真面目に考えている行動なんです。

食べ物を前にした「確認行動」

知らないにおい、食感、見た目―― 犬にとって新しいものは、ちょっと警戒の対象になります。

「これは食べても平気?」「変な味しない?」「なんか硬い…」「今、ここで食べるべき?」 そんな思考が頭の中をめぐっていて、 口に入れては出し、また匂いを嗅ぎ…という確認をしているのです。

人間でいうと、知らない料理が出てきて、ちょっと匂いをかいで、そーっと箸でつまんでみて、「……んん〜?」ってなる、あの感じ。 そんなふうに考えると、なんだかかわいいなって思えてきませんか?

「食べ物の社会化」って知ってる?

犬の“社会化”というと、いろんな人や犬とふれあう練習を思い浮かべる方も多いと思いますが、 実は「食べ物」にも社会化があるんです。

パピー期からいろんな味やにおい、食感、食べ方に触れてきた犬は、「知らない食べ物」にもある程度自信を持てるようになります。 「これは知らないけど、まぁ大丈夫なやつでしょ」って思えるようになるんですね。

でも、食の経験が少ない子や、決まったものばかりを食べて育った子は、そう簡単には飛びつきません。 むしろ、“ぺっぺっ”と出し入れするその行動こそが、「確認している」「ちょっと不安だけど興味はある」っていう、前向きなサインでもあるのです。

その他に考えられる理由

ちなみに、確認行動の他にこんなパターンも考えられたりします。

  • 遊んでいる
    おやつをおもちゃのようにくわえては落として、転がして楽しだり。特にテンションが高いときや、ヒマを持て余しているときに「コロコロしたおやつ」だとおもちゃ扱いしちゃうことがあります。
  • 好みじゃないけど興味はある
    匂いを嗅いで、「ちょっと違うかも…でも気になる…」というとき、食べるかやめるか迷いながら口に出し入れすることがあります。
  • 歯や口の違和感
    とくにシニア犬や、口の中に痛みや違和感があるときには、かじってみようとしてもすぐに出してしまうことがあります。いつもと違う様子が続くようなら、口腔内のチェックをしてあげると安心です。

こうした可能性も頭の片隅に置いておくと良いかも知れません。

実は、環境の影響もある

いつも家でならすぐ食べるのに、外だと出したり、見向きもしなかったり。 そんな経験もあるかもしれません。

これは、犬にとっての“安心できる環境”が影響しています。

周囲に知らない犬がいる、公園でにおいが多い、遠くで子どもが走っている―― そんな「ちょっと気になること」があると、食べ物に集中しにくくなるんです。

「ここで食べるのはちょっとリスクがあるかも」 「もしかしたら今じゃないかも」 という犬なりの判断。

食べたくないわけじゃない。 “今、ここで、これは本当に安全か?”を確認しているだけ。
その慎重さは、命を守るための大切な本能でもあるんです。

じゃあ、どうすればいいの?

まずなによりも、「無理に食べさせようとしないこと」が大切です。

犬が一歩引いているときに、どんどん近づけたり、口元に押し当てたりすると、 「やっぱりこのおやつ、なんかアヤシイ!」と、ますます警戒心が強まってしまいます。

ポイントは、「そっと置いておく」。 そして、安心できる環境で、少しずついろんな食べ物にチャレンジしていくこと。

口に入れて出すのは、むしろチャレンジの証。 いきなりパクッといけなくても、「一度口に入れてみた」だけで大きな前進です。

回数を重ねるうちに、「これは食べても平気なんだ」と自信がついて、 やがて、ぺっぺっ行動は自然となくなっていきます。

もっと「おいしいね」を知ってもらうのもあり

いま食べているものが美味しいのは、それで十分しあわせ。 でも、そこにもうひとつ、さらにひとつ、と「おいしい」が加わったら、もっと楽しくなるかもしれない。

新しいおやつをちょっと舐めてみる。 鼻でフンフン匂いをかいで、「うーん、今日はやめとこ」ってなる日もある。

そのすべてが、“食べる”という経験の中にあって、 犬たちはちゃんと、自分のペースで「おいしい」を探しているのだと思います。

いろんな味を知るって、世界がちょっと広がること。 それはきっと、犬にとってもしあわせなことだし、 そんなチャレンジをそっと応援できる私たちでいたいなと思うのです。

食の社会化、こんなふうにやってみよう

食の社会化は、「いろんなものにチャレンジすること」で自然に育っていきます。 でも、それは無理やりじゃなくて、犬が安心して「試してみようかな」と思える空気をつくるのがポイントです。

まずは、一番落ち着けるおうちから。 新しいおやつを試すときは、静かで気が散りにくい場所を選んであげましょう。

最初はほんのちょっと、小指の先くらいのサイズで十分。 「見せる→置いておく→匂いを嗅ぐ→舐める→口に入れてみる」 このステップを、犬のペースでゆっくり進めてあげてください。

そして、食べなくても失敗ではありません。 出したり、匂いをかいだだけでも、それは立派な一歩。 「今日はここまで」が、明日のチャレンジにつながります。

飼い主さんは、見守るだけでいい。 「どうかな〜?食べるかな?」とドキドキする気持ちを、ぐっとこらえて自然体で。

何も言わずにそばにいてくれるのが、犬には一番の安心です。

わんこの“考えてる顔”も、またかわいい

ぺっぺっと出したおやつも、 いつかきっと、「これ、好きかも!」って喜んで食べてくれる日がくるかも。

犬たちは、焦らず、自分のペースで世界を広げていきます。

だから私たちも、急がなくていい。

「いまのおいしい」と、「これからのおいしい」。 どっちも大切にして、少しずつ、しあわせを育てていきましょう。